PayTmはインドのアリババになるか?不屈の起業家が変えるインドの決済市場


スマートフォンなどのモバイル端末の普及に伴い、インドのEC市場は約2兆円規模まで広がった。2020年には10兆円を超えると予測されるEC市場のインフラを支えるのは、電子決済サービスだ。今回はインドの紙幣改革の影響で追い風を受け、急成長しているデジタルウォレットサービス「PayTm(ペイティーエム)」を紹介する。

インド最大のデジタルウォレット「PayTm」とは?

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出典:New category in Paytm allows users to accept Rs. 50,000 in bank accounts

昨年末、数年ぶりに訪れたデリーのインディラ・ガンジー国際空港。空港を一歩出ると、ATMやタクシー、カフェなどあちこちに、数年前までは見たことのないサービスのステッカーが貼り付けられていて驚いた。それこそが、インド最大のデジタルウォレットサービス「PayTm」だ。空港を出て市街地に入ると、スーパーのレジやガソリンスタンド、小さなローカルフードのレストランにまでこのPayTmのステッカーが貼られていた。

PayTmとは「Pay through Mobile(モバイルで決済)」の略であり、インド最大のデジタルウォレットだ。主にスマートフォンにインストールしたアプリから、携帯電話の利用料金や、水道・ガス・光熱費などの公共料金、航空券やメトロなどの交通機関、映画のチケットの支払いなどができる。

PayTmのオフィシャルブログによると、2016年12月時点での登録ユーザー数は、1億7,700万人であり、これは同年1月よりも5,500人増加したことになる。わずか1年で日本の人口の半分程度のユーザー数を獲得するという成長速度に驚かされる。2016年の取引回数の合計は10億回に達し、1ヶ月あたり8,000万人のアクティブユーザーが「PayTm」を利用している。

電子決済トランザクションにおけるPaytTmのシェアは26%を占め、インドにおいては「クレジットカード・デビットカード」に次いで、メジャーな電子決済手段となっている。

Paytmの電子決済におけるシェア

出典:2016 in numbers. Thank you Paytmers

 

PayTmの仕組み・使い方

PayTmの使い方はいたってシンプルだ。まずは、PayTmのウォレットに、デビットカード、クレジットカード、ネットバンクなどの支払い情報を登録する。そして、必要な金額を入力してウォレットにチャージを行う。

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PayTmにチャージした電子マネーを支払いに使う際は、バーコードリーダーを起動させ、支払い相手のQRコードを読み取り、支払いを行う。paytm2

paytm3日本の「Line Pay」のように、支払い相手のアカウント情報があれば、個人間送金も可能だ。

 

 

PayTMの支払いに対応したステッカーが貼ってある店で、QRコードをアプリで読み取り、アプリをインストールしたスマートフォンから決済を行うことができる。

インドの紙幣改革で追い風を受けたPayTm

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出典:QUARTZ

2016年11月に、モディ首相が500ルピーと1,000ルピー紙幣を廃止したことが、インドに衝撃を与えた。ブラックマネーの撲滅と、現金依存からの脱却を目的として行われた紙幣改革であるが、この影響で市場に流通する紙幣が不足した。それを受けて、銀行やATMでは一時的に現金の引き出し金額に上限が設定され、1口座あたり4,000ルピー(約6,800円)以上引き出すことができなくなった。その結果、一般消費者はできる限り現金を使用することを控え、モバイルウォレットで決済を行うようになった。まさに、PayTmにとっては願ってもない機会である。

実際に、紙幣改革が行われた2016年11月のPayTmのダウンロード数は通常の2倍になり、アクセス数は通常の4倍以上となった。ニューデリーテレビ会社の報道では、CEOのVijay Shekhar Sharma氏を「King Of Demonetisation(紙幣改革の王様)」と紹介し、紙幣改革が行われた後の数ヶ月でユーザー数が1,000万人増加したと報じた。

苦境を乗り越えた不屈の起業家、PayTm CEOのVijay 氏

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PayTm CEO Vijay Shekhar Sharma氏

出典:Business Standard

PayTmの親会社である、One97 Communicationsは、2010年に Vijay Shekhar Sharma氏によって設立された。Vijay氏は非常に厳格な家庭に生まれ、14歳で高等学校に入学した。家庭の事情で英語教育を受けられなかったため英語の読み書きができず、大学入学後には英語で行われる授業に非常に苦労した。そのため、本や雑誌を使って独学で英語を勉強し、なんとか英語を習得したが、大学の勉強についていくことができず、出席を辞めた。

大学に出席せずに時間のあったVijay氏は、HotMailの創業者Sabeer Bhatia 氏やYahooに影響を受け、スターンフォード大学で学びたいと思うようになった。しかし、経済的に苦しく、英語も話せなかったVijay氏はアメリカに行くことがでなかった。そこで、スタンフォードの学生の真似をしようと、独学でプログラミングの学習を始めた結果、プログラミングにのめり込み、友人開発したコンテンツ・マネジメント・システムはThe Indian Expressなどの大手出版会社に導入されるまでになった。

その後、外資系企業に就職するが6ヶ月で辞め、2005年には仲間と会社を起こすが、倒産させた。
しかし、Vijay氏は諦めず、2010年にはPayTmの親会社となるOne97を創業し、インターネットコンテンツ、広告、Eコマースを主軸に事業をスタートさせた。2011年には取締役会で「PayTm」のエコシステムの構想を発表した。当初、役員達はVijay氏がまだ存在しない市場に投資をすることを反対したが、最終的にはビジョンを熱く語る彼の提案を受け入れ、デジタルウォレットの「PayTm」が誕生した。

 

 

アリババからの資金調達で、実質子会社化したPayTm

PayTm CEOのVijay Shekhar Sharma氏とアリババ会長ジャック・マー氏

PayTm CEOのVijay Shekhar Sharma氏とアリババ会長ジャック・マー氏

引用:Business Standard

米国のテックメディアVentureBeatによれば、中国のEC企業大手「アリババ(阿里巴巴)」は、PayTmに2015年10月に6億8000万米ドル規模の投資を行ったと報じられた。また、Tech in Asiaによると、2017年にインドのリライアンス財閥のVCであるReliance Capitalが、Paytm の親会社である One97 Communications の株式を4,200万米ドルで Alibaba(阿里巴巴)に譲渡したと報道された。これらの投資により、PayTmは実質的にアリババの子会社となった。

PayTmと熾烈な争いを繰り広げる競合たち

PayTmオフィス

PayTmのオフィスが入るビル

PayTmはデジタルウォレットを主軸とし、電子マネーで買い物ができるマーケットプレイス「PayTm Mall」や、マイクロファイナンスや保険などの金融サービスを「PayTm Bank」をスタートさせた。デジタルウォレットで囲い込んだユーザーに、ショッピングや金融サービスを提供し、PayTmのエコシステムを構築する狙いがあると考えられる。

デジタルウォレット市場には競合の「MobiKwik」がユーザー数を伸ばしており、インドの総合型B2CのECサイト「SnapDeal」や、4番手の「ShopClues」などではMobiKwikで決済が可能になっている。

また、「PayTm Mall」が勝負を仕掛ける「総合型B2CのEC市場」では、シェアナンバーワンのFlipkartとそれに次ぐAmazonが市場全体の70%近くを占めており、熾烈な競争を繰り広げている。

今後もインドのデジタルウォレット市場から目が離せない。